世界中であまりにも有名なこの童話を書いたのは、フランスの、飛行士(パイロット)でもあるベストセラー作家サン=テグジュペリです。(1900-1944、代表作には『夜間飛行』『人間の土地』『南方郵便機』等がある)
序文の「・・・・大人は、だれも、はじめは子どもだった。しかし、そのことを忘れずにいる大人は、いくらもいない。・・・・・」で始まるこの童話、以前から、本当にすばらしい作品だから読んでみると良いといったことを幾度となく耳にしていたのですが、たまたま2週間ほど前にこの本を買って来ました。
すると、数日前に、BSのHV特集で、『星の王子さま こころの旅 サン=テグジュペリ 愛の軌跡』といった番組が放送されました。・・・偶然といったらいいのか、必然といったらいいのか・・・・
ストーリーは、サハラ砂漠に、エンジン・トラブルによって不時着したパイロットと、遠い星からやってきた王子さまが出逢うところから始まります。(パイロットも、王子さまも、共に、作家のサン=テグジュペリの分身なのですが・・・)
王子さまは、どこからか飛んできた種が芽を吹いた、美しい花に心をうばわれます。その花は、咲いたかと思うとすぐ、じぶんの美しさを鼻にかけてワガママを言って、王子さまを苦しめ始めました。そうして王子さまは、逃げるようにふるさとの星をあとにすることになります。
後に、王子さまは、以下の事に気づくのですが、このときには旅立つしかありませんでした。
「ぼくは、あの時、何もわからなかったんだ。あの花の言うことなんか、とりあげずに、することで品定めしなけりゃあ、いけなかったんだ。ぼくは、あの花のおかげで、いい匂いにつつまれていた。明るい光の中にいた。だから、ぼくは、どんなことになっても、花から逃げたりしちぁいけなかったんだ。ズルそうな振る舞いはしているけど、根は、やさしいんだということを汲み取らなけりぁいけなかったんだ。花のすることったら、ほんとにトンチンカンなんだから。だけど、ぼくは、あんまり小さかったから、あの花を愛するって事が、わからなかったんだ」
いくつかの星を旅することとなった王子さま。
命令することでしか他人との関わりを持つことのできない王様の住む星。・・他人から感心を持たれることしか考えないうぬぼれ男の住む星。・・恥ずかしいことを忘れたくて酒ばかり飲んでいる男の住む星。・・“所有”することと“管理”することといった帳簿上の計算しか頭にない実業屋の住む星。・・実際にその場所に出向こうとしないで、机上の学問ばかりをおこなっている地理学者の住む星。・・・
それらの星を後にする度に、大人って、本当に変だな、と王子さまはむじゃきに考えました。
そして、地球にやってきました。
王子さまは、バラの花の咲きそろっている庭にいました。遠くに残してきた花は、自分のような花は、世界のどこにもない、といったものでした。それだのに、どうでしょう。見ると、たった一つの庭に、そっくりそのままの花が、五千ほどもあるのです。
「もし、あの花が、このありさまを見たら、さぞこまるだろう・・・やたら咳(せき)をして、ひとに笑われまいと、死んだふりをするだろう。そしたら、ぼくは、あの花をかいほうするふりをしなければならなくなるだろう。だって、そうしなかったら、ぼくをひどいめにあわそうと思って、ほんとうに死んでしまうだろう・・・・・」
「ぼくは、この世に、たった一つという、めずらしい花を持っているつもりだった。ところが、じつは、あたりまえのバラの花を、一つ持っているきりだった。・・・・・・・」
王子さまは、草の上につっぷして泣きました。
すると、そこへキツネがあらわれました。「ぼくと遊ばないかい?」と、王子さまはキツネにいいました。
キツネ
「おれ、あんたと遊べないよ。飼いならされちゃいないんだから」
「(飼いならすって、つまり、)仲良くなるってことさ・・・・うん、そうだとも。おれの目から見ると、あんたは、まだ、今じゃ、他の十万もの男の子と、別に変わりない男の子なのさ。だから、おれは、あんたがいなくたっていいんだ。あんたもやっぱり、おれがいなくったっていいんだ。あんたの目から見ると、おれは、十万ものキツネと同じなんだ。だけど、あんたが、おれを飼いならすと、おれたちは、もう、お互いに、離れちゃいられなくなるよ。あんたは、おれにとって、この世でたったひとりになるし、おれは、あんたにとって、かけがえのないものになるんだよ・・・・」
「だけど、もし、あんたが、おれと仲よくしてくれたら、おれは、お日さまに当たったような気持ちになって、暮らしてゆけるんだ。足音だって、今日まで聞いてきたのとは、違ったのが聞けるんだ。ほかの足音がすると、おれは、穴の中にすっこんでしまう。でも、あんたの足音がすると、おれは、音楽でも聴いている気持ちになって、穴の外へはいだすだろうね。それから、あれ、見なさい。あの向こうに見える麦畑はどうだね。・・・あんたのその金色の髪は美しいなあ。あんたがおれと仲よくしてくれたら、おれにぁ、そいつが、すばらしいものに見えるだろう。金色の麦を見ると、あんたを思い出すだろうな。それに、麦を吹く風の音も、おれにぁうれしいだろうな・・・」
王子さま
「ぼく、とても仲よくなりたいんだよ。だけど、ぼく、あんまり暇がないんだ。友だちも見つけなけりぁならないし、それに、知らなけりぁならないことが、たくさんあるんでねえ」
キツネ
「自分のものにしてしまったことでなけりぁ、何もわかりゃしないよ。人間ってやつぁ、今じゃ、もう、何もわかる暇がないんだ。・・・・」
王子さま
「でも、どうしたらいいの?」
キツネ
「しんぼうが大事だよ。最初は、おれから少しはなれて、こんなふうに、草の中にすわるんだ。おれは、あんたをちょいちょい横目で見る。あんたは、何もいわない。それも、言葉っていうやつが、勘ちがいの元だからだよ。一日一日とたってゆく内に、あんたは、だんだんと近いところへ来て、すわれるようになるんだ・・・・」
「いつも、同じ時刻にやってくるほうがいいんだ。あんたが午後四時にやってくるとすると、おれ、三時には、もう、うれしくなりだすというものだ。そして、時刻がたつにつれ、おれはうれしくなるだろう。四時には、もう、おちおちしていられなくなって、おれは、幸福のありがたさを身にしみて思う。だけど、もし、あんたが、いつでもかまわずやって来るんだと、いつ、あんたを待つ気持ちになっていいのか、てんでわかりっこないからなあ・・・・“決まり”がいるんだよ」
「もう一度、バラの花を見に行ってごらんよ。あんたの花が、世の中に一つしかないことがわかるんだから。それから、あんたがおれにサヨナラをいいに、もう一度、ここにもどって来たら、おれはおみやげに、ひとつ、秘密を贈り物にするよ」
(中略)
「さっきの秘密を言おうかね。なに、なんでもないことだよ。心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」
「あんたが、あんたのバラの花をとても大切に思ってるのはね、そのバラの花のために、暇つぶししたからだよ」
「人間っていうものは、この大切なことを忘れてるんだよ。だけど、あんたは、このことを忘れちゃいけない。面倒みた相手には、いつまでも責任があるんだ。守らなけりぁならないんだよ、バラの花との約束をね・・・」
★この作品で、サン=テグジュペリが描いた「花」とは、妻のコンスエロを表したものでした。情熱家の二人は似たもの同士で、その愛の深さゆえに、長い間、葛藤し、互いに悩み苦しんだのだということでした。
サン=テグジュペリは、この作品を自分の「遺書」だと友人に語っています。出版の一月後には、パイロットとして対ドイツ戦に自らすすんで志願し、南フランスの地中海沖で帰らぬ人となりました。
この世における、人と人との出会い・・・つまり、“ご縁”は大切にしなければいけないということ。ある意味、責任が伴うのだということ。そして、それを深めて行くには、共に過ごす時間が、どうしても不可欠となるのだということ。そういったことを、サン=テグジュペリはわれわれに教えてくれました。
|
|
|
|